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東京地方裁判所 平成7年(ワ)14172号 判決

主文

一  原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。

二  反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)ルパーナ株式会社に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成七年七月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告(被告)ルパーナ株式会社のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを四分し、その三を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)ルパーナ株式会社の負担とする。

五  この判決は、反訴原告(被告)ルパーナ株式会社勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  本訴請求

本訴被告らは、原告(反訴被告)に対し、各自金三億〇八三六万九六八五円及びこれに対する平成七年六月一四日(ただし、被告(反訴原告)ルパーナ株式会社についてのみ同年六月一五日)から支払済みまで、被告(反訴原告)ルパーナ株式会社及び被告システムインターナショナルマネージメント株式会社については年六分、被告丙川松夫については年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴請求

反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)ルパーナ株式会社に対し、金一億〇九九一万一五二〇円及びこれに対する平成七年七月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告(反訴被告、以下「原告」という。)が、被告(反訴原告)ルパーナ株式会社(以下「被告ルパーナ」という。)に対し、化粧品販売元取引契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告システムインターナショナルマネージメント株式会社(以下「被告システムインターナショナルマネージメント」という。)に対し、保証債務履行請求権に基づき、被告丙川松夫(以下「被告丙川」という。)に対し、商法二六六条ノ三第一項類推適用に基づき、連帯して三億〇八三六万九六八五円及びこれに対する各本訴状送達の翌日(被告ルパーナについて平成七年六月一五日、その余の被告について平成七年六月一四日)から各支払済みまで、被告ルパーナ及び被告システムインターナショナルマネージメントについては商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、被告丙川松夫については民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求め(本訴請求事件)、他方、被告ルパーナが、原告に対し、本件契約の終了に基づき、保証金一億〇九九一万一五二〇円及びこれに対する反訴状の送達の日の翌日である平成七年七月二〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴請求事件)事案である。

一  争いのない事実

1 原告は化粧品の販売等を業とする株式会社であり、被告ルパーナは化粧品の販売等を業とする株式会社である。

2 原告は、被告ルパーナとの間において、平成四年一二月一四日、原告を発売元、被告ルパーナを販売元とするジャナ基礎化粧品販売元取引契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

また、被告システムインターナショナルマネージメントは、原告との間において、右同日、本件契約に基づく被告ルパーナの債務につき連帯保証契約を締結した。

3 本件契約締結に際し、被告ルパーナは、原告に対し、保証金として、一〇〇〇万円を交付した。

4 また、被告ルパーナは、原告に対し、平成五年一二月二二日、予約保証金として、九九九一万一五二〇円を交付した。

5 本件契約に際し、原告と被告ルパーナは、保証金について、本件契約満了時に返還することを合意した。

6 被告ルパーナは、平成六年三月二六日ころ、原告に対し、同年一二月一三日をもって本件契約を終了する旨の告知をした(以下「本件告知」という。)。

7 被告ルパーナは、原告に対し、平成六年一二月二九日付内容証明郵便にて、三週間以内に引渡未了の商品の引渡を請求するとともに、一週間以内に保証金を返還するよう請求したが、原告は、右履行をしない。

二  原告の主張

1 契約期間

本件契約の満了期間は、次のとおり早くとも平成一〇年一二月一三日である。

(一) 原告と被告ルパーナは、本件契約締結に際し、契約期間を平成四年一二月一四日から六年間とするとの合意をした。したがって、本件契約の終了時期は、平成一〇年一二月一三日と考えるべきである。

(二) 仮に、原告と被告ルパーナが、本件契約締結に際し、契約期間を平成四年一二月一四日から二年間とするとの合意をしたとしても、平成五年一一月三〇日、同日から五年間契約を継続するとの合意をした。

(三) 仮に、原告と被告ルパーナが、本件契約締結に際し、契約期間を平成四年一二月一四日から二年間とするとの合意をしたとしても、本件契約が継続的供給契約であることにかんがみると、当事者の一方的告知により期間満了を理由として当然に契約が終了するものではなく、相手方に契約の存続を著しく困難ならしめるような行為がない限り解約告知はできないと解すべきところ、原告において本件契約の存続を著しく困難ならしめるような行為をしてはいないのであるから、平成四年一二月一三日に右契約が終了することはない。

2 被告ルパーナの債務不履行

(一) 被告ルパーナは平成一〇年一二月一三日まで原告と取引を継続し商品を購入する債務(商品を注文し、注文した商品を受領し、代金を支払う債務)を負っていた(契約書第二条)が、平成五年一二月一四日以降原告との取引を行わなかった。

(二) 被告ルパーナは原告に対し販売努力義務を負っていたが、契約当初より売上げの努力をせずに右義務を履行しなかった。

(三) 原告と被告ルパーナは、本件契約後約六か月を経過した後は協議の上、最低取引額を定めることになっていたのに、六か月を経ても最低取引額の定めをしなかった。

(四) 被告ルパーナは代金決済期限を遅滞した。

(五) 被告ルパーナは原告が指定したサンプル用パッケージ表面デザインを原告に無断で変更し、原告が厚生省に化粧油(化粧下地)として届出済みのジャナピュアナオイルを化粧品パンフレットで美容液として記載しこれを配布するなどの違法行為を行って原告の信用を失わせた。

3 原告の被った損害

被告ルパーナの債務不履行により原告が被った損害は、次のとおり合計三億〇八三六万九六八五円である。すなわち、取引化粧品八種類の卸売単価の合計が二万一九七〇円であり、各化粧品についての一年間の合意された最低取引量が六〇〇〇セットであることを前提とすると、一年間の実質利益は六一六七万三九三七円となる。取引量のない期間は五年間(将来分も含む。)であるので、六一六七万三九三七円の五年分は、三億〇八三六万九六八五円であり、これが原告の被った損害である。

4 被告丙川の責任

被告丙川は、被告ルパーナの実質上の経営者であった者であり、本件取引中止の決定も被告丙川によりなされたものである。したがって、被告丙川は、被告ルパーナの実質上の取締役として商法二六六条ノ三第一項の類推適用により、原告の被った損害を賠償する義務を負う。

5 原告が商品の引渡をしないのは次のような事情による。すなわち、<1>平成六年一一月に被告ルパーナは原告に残商品の廃棄処分を依頼している。したがって、この時点で被告ルパーナは所有権の放棄をしたものである。また、<2>被告ルパーナは原告に無断で平成六年八月に本店所在地を移転した。ところで、化粧品の容器等には通常発売元、販売元も住所、名称が記載されているのであるが、原告の用意している容器には当然ながら被告ルパーナの旧本店所在地が記載されている。そして、販売元の表示が誤っている化粧品を市場に出すことはできないので、被告ルパーナが原告に対して新容器作成の費用を支払うのでなければ引渡はできないし、その旨の通知もしている。<3>また、保証金の返還に関しては、未だ契約期間は満了していないので、返還をしていない。

6 原告代表者乙山太郎(以下「乙山」という。)は、被告ルパーナに対し、右翼団体との関係を示唆して脅迫的言動等を取ったことは一切ないし、被告らが主張する団体の行動に原告は関与していない。

三  被告らの主張

1 契約期間

原告と被告ルパーナは、本件契約締結に際し、契約期間を平成四年一二月一四日から二年間とするとの合意をした(本件契約書一二条)。したがって、平成六年一二月一三日の経過により右契約は終了した。

2 本件告知の正当理由

仮に、契約の終了告知(更新拒絶)につき正当理由を要するとしても、本件告知には、次のとおり正当理由がある。

(一) 被告ルパーナは相当の販売努力を行ったにもかかわらず、事業成功の見通しが悲観的な状況に立ち至ったため、原告は、被告ルパーナに対し、平成五年一一月ころ、本件契約の解約を申し入れた。

(二) 本件契約において更新拒否権が合意されており、また、被告ルパーナは、原告に対し、合理的な事前期間をおいて再三にわたり更新拒否を通知していたし、原告においても、平成六年三月ころ、本件契約を更新しないことに同意していた。

(三) 乙山は、被告ルパーナに対し、マスコミに公開質問状を出す、右翼と今でも連絡が取れる等と言っており、通常の取引の相手として極めて不適切な人物であることが判明し、正常な契約関係を継続していくことは不可能であると考えられた。また、そのような被告ルパーナの判断は前後の事情から見て相当である。また、原告は、被告ルパーナに対し、莫大な損害賠償を請求した。

(四) 原告が主張する被告ルパーナの債務不履行の事実については否認する。

3 被告丙川の責任

被告丙川が、当時使用した名刺に「ルパーナ株式会社代表取締役会長」と記載されていたことは認めるが、その余は否認又は争う。

4 反訴請求について

被告ルパーナは、原告に対し、一の3および4のとおり保証金として合計一億〇九九一万一五二〇円を交付しているところ、本件契約は終了したので、その返還を求める。

四  争点

1 本件契約の期間はいつまでか。

2 本件告知の正当理由の有無

3 被告ルパーナの債務不履行

4 被告丙川の責任

5 保証金の返還義務の存否

第三  争点に対する判断

一  事実経過

争いのない事実及び《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

1 契約締結の経過

(一) 原告は、化粧品の販売等を業とする株式会社であり、昭和五八年三月一五日設立され、平成四年ころ当時、資本金三〇〇〇万円で従業員一〇名程度を有しており、年間の売上高、経常利益はそれぞれ約九〇〇〇万円、約四〇〇万円であり、乙山は原告の代表取締役である。

(二) 他方、被告ルパーナは、化粧品の販売等を業とする株式会社であり、平成四年一二月一八日資本金三〇〇〇万円で設立され、従業員は一〇名程度であった。被告ルパーナは、宗教法人丁原苑(以下「丁原苑」という。)の外郭団体の一つであり、丁原苑の教団活動の円滑な促進のための事業活動を行っているものである。北村久人(以下「北村」という。)は被告ルパーナの代表取締役であり、また、政井義昭(以下「政井」という。)は、平成五年ころ当時、被告ルパーナの専務取締役の肩書きで原告との交渉にあたっていたが、平成六年六月、同社を退職した。

被告丙川は、丁原苑の苑主である丙川花子の夫であり、平成四年ころ当時、被告システムインターナショナルマネージメントの代表取締役であったのみならず、名刺等において被告ルパーナの「代表取締役会長」という肩書を使用していた。

(三) 被告ルパーナが設立準備中であった平成四年九月ころ、北村及び政井らは、被告ルパーナにおいて新規に化粧品、健康食品、シルバー用品の通信販売事業を行うことを企画し、右事業における商品の仕入先として、人の紹介を受け原告と交渉することになった。乙山と政井を中心に打ち合わせが重ねられ、原告も本件企画が多数の信者を持つ丁原苑を背景にした事業であり経済的利益も見込めると判断して前向きに交渉に応じ、原告が有していた「JANA」の商標権(登録番号第一六一三五二六号、昭和五八年九月二九日商標登録)を被告ルパーナに使用させる方向で話が進められた。

その結果、原告は、設立登記直前の被告ルパーナとの間において、平成四年一二月一四日、原告を発売元、被告ルパーナを販売元とするジャナ基礎化粧品販売元取引契約(本件契約)を締結し、また、被告システムインターナショナルマネージメントは、原告との間において、右同日、本件契約に基づく債務につき連帯保証契約を締結した(契約自体は争いがない。)。

すなわち、<1>原告は被告ルパーナに対し九種類の化粧品(ジャナピュアナクレンジング、ジャナピュアナソープ、ジャナピュアナローションNO1、ジャナピュアナローションNO2、ジャナピュアナエキストラローション、ジャナピュアナエッセンス、ジャナピュアナパック(マスク)、ジャナピュアナオイル、ジャナピュアナシリーズサンプル)を継続的に販売し、あわせてジャナ化粧品のブランド使用権をすべて授与すること(契約書第二条)、<2>原告は被告ルパーナに対し本件契約時から六か月間は最低取引額を設定しないものとし、六か月経過後は協議の上最低取引額等を設定すること(契約書第四条)、<3>被告ルパーナは、原告に対し、本件契約に際し取引上の債務の担保として保証金一〇〇〇万円を差し入れるものとし、保証金については本件契約終了時に返還するものとすること(ただし、被告ルパーナが化粧品容器金型・製造済みの容器等を時価で買い取る代金額と相殺清算する。)(契約書第六、七条)、<4>本件契約の期間は二年間とし、双方から異議がない限り契約は自動更新され、契約を更新する場合には双方の協議により新しい契約条件を定めること(契約書第一二条)、<5>本件契約期間中又は更新後の契約期間中は契約解除がされない限り、相互に任意解約をすることはできないこと(但し、解約申込書が解約により相手方に発生する契約残存期間中の得べかりし利益の喪失分等一切の損害を賠償すればこの限りでない。)(契約書第一三条)、<6>本件契約が終了したときは、被告ルパーナは原告が被告ルパーナのために作成した化粧品容器金型・製造済みの容器等を時価で買い取ること(契約書第一七条)等の合意がなされた。

そして、本件契約締結に際し、被告ルパーナは、原告に対し、右<3>の約定に基づき、保証金として一〇〇〇万円を交付した(争いのない事実)。

2 契約締結後の経過

(一) 被告ルパーナは、本件商品の事業を開始することになり、営業活動として、業者からダイレクトメールのリストを入手して、平成五年五月ころから同年一一月ころまで、企業紹介、化粧品等のパンフレットを同封したダイレクトメール等合計約一〇万通を送付した(商品としては、本件契約で定められた九種類の他にジャナピュアナシンプルローションも加えられ、ジャナピュアナシリーズサンプルは無料のサンプルとされた。)

しかしながら、リピート率(回収率)が低調で一パーセントにも満たなかったため、当初の事業計画よりも大幅な赤字となり、本件事業の継続について再検討を余儀なくされる事態に立ち至った。

また、被告ルパーナは、原告が指定したサンプル用パッケージ表面デザインを変更したり、原告が化粧油(化粧下地)としていたジャナピュアナオイルを化粧品パンフレットで美容液として記載してこれを配布したこともあった(なお、仮に右が本件契約の債務不履行を構成するとしても、原告主張の損害との間の相当因果関係がない。)。

(二) このように本件事業が計画どおり推移しない状況の中、平成五年六月ころ、写真週刊誌「FLASH」六月八日号において、「統一教会、オウム真理教……話題宗教の知られざる一面を拝見!新興宗教の意外な副業」という題のもとで、「統一教会、食べ放題中心の焼き肉バイキング」、「オウム真理教、超激安が売りのパソコン店を経営」という見出しの記事に続いて、「丁原苑、自然派化粧品の通信販売に進出!」という見出しで、本件事業のことが写真入りの記事として掲載された。すなわち、モデルの女性が「S」のマークの付いた原告の商品を手にした写真が掲載されており、本文では、「確かに丁原苑さんのところでうちの化粧品を販売していただくことは決まっています。しかし、ルパーナさんの了解を得ないとこれ以上はお話しできません。」との乙山の談話等が紹介されているという内容のものであった。右記事について、被告ルパーナは、丁原苑が、霊感商法で問題となっている統一教会やオウム真理教と同列に扱われているとして、そのような印象を一般読者が抱くことについて不安感を抱いた。また、右記事を知った丁原苑の信者から、丁原苑の外郭団体が物品販売を行うのは霊感商法と誤解されるという指摘もなされた。

(三) 原告は、被告ルパーナに対し、平成五年七月ころから、契約書第四条に定められた最低取引数量の設定をするよう求めてきたが、被告ルパーナは、本件商品の売上が低調であることもあり、最低取引数量の設定を先延ばしにしてくれるよう求め、両者間で最低取引数量の設定や今後の販売促進の方法等について協議がなされ、新事業計画として低価格帯の商品を売り出すことも検討対象となった。

他方、平成五年一〇月ころ、通信販売の成績がはかばかしくないことや「FLASH」の記事が社内で問題とされたこと等から、政井は、乙山に対し、本件契約の解消を打診したこともあったが、乙山はこれを拒絶した。なお、政井は、平成五年一二月上旬ころから、乙山との信頼関係が損なわれたこともあり本件契約に関する原告との交渉担当から外され、右時期以降は北村が主として原告との交渉に当たるようになった。

(四) 平成五年一一月三〇日、原告代理人の早川健一弁護士(以下「早川弁護士」という。)事務所において、原告側(乙山、早川弁護士)と被告ルパーナの担当者(北村、政井ら)による会合がなされ、本件契約を継続する方向で考えるのかどうか、継続するとして今後どのような新事業計画を立てるか等について打ち合わせがなされた。また、この会合の場で、右「FLASH」の記事が話題に上った。

平成五年一二月六日、北村は、原告本社において、乙山と会ったが、そのときの状況は後記4で詳述するとおりである。

平成五年一二月六日ころ、原告(代理人早川弁護士)は被告ルパーナに対し、平成五年一二月六日付けの文書を送付し、本件契約についての交渉継続を申し入れた。

原告と被告ルパーナは、平成五年一二月二二日、本件契約を補充する内容の合意をした(以下「本件補充合意」という。)。すなわち、原告と被告ルパーナは、<1>本件契約に基づき、平成五年六月四日打ち合せの容器メーカーとの生産最少ロット数六〇〇〇本に対する残数として被告ルパーナが原告から買い受ける商品の種類・数量・金額を確認すること(種類は八種類で本件契約で定められた九種類からジャナピュアナソープとジャナピュアナシリーズサンプルを除いた七種類にジャナピュアナシンプルローションを加えたものである。数量は、ジャナピュアナエッセンスとジャナピュアナオイルが六〇〇〇本である他は、それぞれ後記のとおりすでに平成五年一〇月ころ購入した約二〇〇〇本を差し引いた約四〇〇〇本である。また、金額の合計は九九九一万一五二〇円である。)、<2>被告ルパーナは原告に対し右商品の売買予約のために保証金九九九一万一五二〇円を預託すること、<3>原告及び被告ルパーナは、商品引渡の都度、右保証金から売買代金に充当するものとすること、<4>被告ルパーナが右商品の引取ができない場合は被告ルパーナは原告に対し右保証金を弁償金として充当すること、<5>原告が右商品を被告ルパーナの発注どおり納品できない場合はその時点での代金を差し引いた残額を被告ルパーナに返還することを合意した。そして、被告ルパーナは、原告に対し、同日、予約保証金として、九九九一万一五二〇円を交付した。

(五) その後も、新規の事業計画についての話し合いは続けられたが、最終的な合意には至らないまま決裂した。また、平成六年三月一六日ころ、原告は、被告ルパーナに対し、平成六年三月一六日付けの文書を交付し、契約期間を四年に延長することを要求した。

そこで、被告ルパーナは、原告に対し、平成六年三月二六日ころ(同月二四日は口頭で、同月二八日は文書及び口頭で)、同年一二月一三日をもって本件契約を終了する旨の告知(本件告知)をした(争いのない事実)。

(六) 本件告知後は、原告と被告ルパーナ間で本件契約の終了を前提として損害賠償を中心とした契約の事後処理について交渉がなされたが、双方の言い分は食い違い、最終的に合意にまで至らないまま決裂したが、その状況は次のとおりである。

<1>平成六年六月一日ころ、乙山は丁原苑本部に被告丙川を訪ねたが、同人は不在であった。<2>平成六年六月九日ころ、被告ルパーナは、真智稔弁護士(以下「真智弁護士」という。)に対し、本件契約の事後処理全般を委任し、原告にその旨を通知した。<3>平成六年八月九日ころ、原告は、被告ルパーナに対し、平成六年八月九日付けの文書を送付し、本件契約の契約期間が三年間であることを前提にして、本件契約の債務不履行により原告が被った損害額が合計六億八〇八一万四七〇八円であると主張した。<4>平成六年九月一四日ころ、被告ルパーナは、原告に対し、平成六年九月一四日付けの文書を送付し、損害賠償義務を負わない旨通知した。<5>平成六年一二月三〇日、被告ルパーナ(代理人は、石角完爾弁護士)は、原告に対し、三週間以内に引渡未了の商品の引渡を請求するとともに、一週間以内に保証金を返還するよう請求した(争いのない事実)。<6>また一連の交渉過程の中で乙山が北村の自宅に頻繁に電話したり、政井が裏金を要求したと主張したり、北村の経営能力を批判するような言動をしたことが窺われる。

(七) 右交渉が決裂した後、被告ルパーナは、原告に対し、平成七年五月一五日、東京簡易裁判所に調停前の措置命令を申し立てた(平成七年(サ)第〇六四〇六号事件)が、その後、平成七年五月中旬から六月上旬にかけて、戊田青年塾の街頭宣伝車がJR甲田駅や東京都甲田市にある丁原苑本部周辺近辺において街頭宣伝活動を実施した。右街頭宣伝活動においては、「丁原苑は霊感商法をヤメロー」「丁原苑はマルチ商法をヤメロー」といった丁原苑に対する攻撃が繰り返された。また、そのころ、被告丙川らに対し政治結社・日本乙野社幹事長兼三多摩本部本部長である丙山竹夫から「抗議文」と題する書面が送付された。右抗議文においては、原告と被告ルパーナの名前を挙げて本件契約と交渉決裂に至る経過が具体的かつ詳細に記載されたうえで、被告丙川に対する強い調子で抗議がなされ、さらに、被告丙川から何らの回答がない場合、右抗議文をマスコミ各社に届け、全国の同志同友に呼びかけて一大抗議行動を展開するとしている。そこで、丁原苑は、平成七年六月一四日、行動戦線戊田青年塾こと丁川梅夫に対する街頭宣伝活動禁止等の仮処分命令を申し立て、同月二七日、東京地裁において、債権者丁原苑、債務者行動戦線戊田青年塾こと丁川梅夫とする街頭宣伝活動禁止等の仮処分決定がなされた(東京地方裁判所平成七年(ヨ)第三〇二二号仮処分事件申立事件)。

3 被告ルパーナの営業努力等

(一) 被告ルパーナは、以下のとおり本件契約に基づく化粧品の販売促進活動(主としてダイレクトメールの方法による。)を行い、これに関連して要した印刷、郵送等の費用は合計約九〇〇〇万円である(もっとも、このなかには、ダイレクトメールに添付したと見られる植物の種の費用等も含まれており、またダイレクトメールには企業紹介や化粧品のパンフレットの他に健康食品、シルバー用品のパンフレットも同封されている。)。すなわち、被告ルパーナは、<1>企業紹介や化粧品のパンフレットを約一五万部印刷製作し、<2>その後、化粧品ミニパンフレットを約一〇万部印刷製作し、<3>それぞれについてダイレクトメールを合計約一〇万部発送し、<4>無料サンプルセットについては約一万五〇〇〇セットの注文を受けた。

(二) 被告ルパーナは、原告から、次のとおり、化粧品を購入し、代金を支払った。

(1) 平成五年三月ころ、被告ルパーナは、原告から、化粧品九種類各約一〇〇〇本(但し、本件契約で定められた九種類からジャナピュアナシリーズサンプルを除いた八種類にジャナピュアナシンプルローションを加えたものである。)を購入し、平成五年四月に右代金等として約二二〇〇万円を支払った。なお、右購入代金の単価は販売価格の四割である。

(2) 平成五年五月ころ、被告ルパーナは、原告から、化粧品九種類各約五〇〇本(但し、本件契約で定められた九種類からジャナピュアナシリーズサンプルを除いた八種類にジャナピュアナシンプルローションを加えたものである。)を購入し、平成五年六月に右代金として約一五〇〇万円を支払った。なお、右購入代金の単価は販売価格の四割である。

(3) 平成五年一〇月ころ、被告ルパーナは、原告から、化粧品八種類各約二〇〇〇本、(但し、本件契約で定められた九種類からジャナピュアナソープ、ジャナピュアナシリーズサンプル、ジャナピュアナエッセンス、ジャナピュアナオイルを除いた五種類にジャナピュアナシンプルローションを加えたものである。)等を購入し、平成五年一二月までに右代金として約三三〇〇万円を支払った。なお、右購入代金の単価は販売価格の三割六分から三割七分程度である。

(4) 平成五年六月ころ、被告ルパーナは、原告から、贈答用石鹸約三万セット(一セットは、三個入りと六個入りとがあり、いずれも一セットの単価は七六〇円である。)を購入し、平成五年八月までに右代金として約二四〇〇万円を支払った。

(5) 平成五年三月から七月ころまで、被告ルパーナは、原告から、ジャナピュアナシリーズサンプル約一万五〇〇〇セット(一セットの単価は八一五円である。)を購入し、平成五年八月までに右代金として約一三〇〇万円を支払った。

4 補足説明

(一) 乙山の発言について

被告ルパーナ代表者北村本人は、平成五年一二月六日、原告本社において、乙山が北村に対し「自分は若い頃右翼団体戊原隊を設立し、事務局長として全てを仕切った。その流れから今日活動している団体が二つある。日本乙野社、甲川社だ。今でも連絡が取れる。経済界のもめ事の仲裁、陰で小沢一郎を動かしている戊野竹夫株式会社の甲原梅夫社長は私の親分だ。何かあったらいつでも相談に行ける。マスコミ等に公開質問状を出すことも検討している。」旨発言し、北村は非常に恐ろしく感じ精神的な圧迫感を受け、このような人物と契約継続のために協力していくことは困難であると感じ、その後も数回にわたり乙山から北村に対し同趣旨の発言がなされたと陳述・供述するが、原告代表者乙山本人は右発言がなされたことを一貫して否認しているので、以下北村供述の信用性について検討を加える。

(一) 《証拠略》によれば、<1>乙山は、昭和三〇年ころから昭和四七年ころまで戊原隊等の右翼団体に所属し機関誌作成等に従事しており、編集局長等の地位にあったこと、<2>乙山は日本乙野社の乙原春夫会長と四〇年来の知人であり、本件に関しても平成六年ころ同人に対し被告丙川との面会をできるように手配を依頼したことがあり、その際、本件の概括的な経過を同人に説明したこと、<3>戊原隊は昭和三六年ころ発足し後に発展的解消をして昭和四四年ころ日本乙野社になり現在に至っていること、<4>原告の取締役である戊野松夫は、平成五年当時、戊野竹夫株式会社の代表取締役副社長であり、原告の株式の四割を所有していたこと、<5>平成六年一〇月一四日、週刊誌四社の記者から原告に対し本件に関する取材があったとして、乙山が被告ルパーナにその旨を電話で連絡したことが認められる。

(2) 右認定の各事実を総合すると、前記街頭宣伝活動及び抗議文活動については、乙山ら原告関係者の直接又は間接的な形での依頼等の関与に基づくものであると推認することができる。

(3) 以上の各事情を勘案すると、乙山の発言についての北村供述は具体的であって、当時の客観的事情や事後の事情にも符号すること等からみて、北村供述は大筋で信用することができる。原告は本件補充合意成立の経過に鑑みれば北村は乙山に対して畏怖するなどしていなかったと指摘するが、右合意の経過は後記認定のとおりであり、また前記認定のとおり被告ルパーナは最低取引数量の設定を希望していなかったところ、乙山の要求もあり結果的に設定に応じ、保証金約一億円を交付したという事情も勘案すると、北村が乙山に対し畏怖するなどしていなかったことの根拠とはならない。結局、乙山の意図はともかくとしても、乙山から北村に対し前記のとおりの趣旨の一連の発言がなされ、これにより北村が畏怖し、原告と契約継続のために協力していくことは困難であると感じたことには相当の理由があるというべきである。

なお、原告代表社乙山本人は、政井が乙山に対し「丁原苑は全国に支部があり外国にも支部があり、すごい勢いで伸びている宗教団体である。大阪に会館を建てるとき、丙田組とトラブルになり、元の法務大臣後藤田さんに仲介してもらって解決した。それから丙田組とも仲良くなった。」と発言したと陳述・供述するが、《証拠略》等に照らし採用しない。

(二) 最低取引数量をめぐる状況

(1) 原告代表者乙山本人は、本件契約締結時ころに最低取引数量の合意が乙山と政井との間で成立していたと供述するが、前記認定の契約書第四条の記載の内容や《証拠略》に照らして採用できない。

(2) 原告は、平成五年一二月二二日に成立した本件補充合意の内容は一年間の最低取引数量を六〇〇〇セットしたものであると主張するが、《証拠略》によれば、右合意に先立って原告が作成した「商品代金予約預り金」と題する書面で「化粧品販売元取引契約書に基づく初年度分残」等と記載されていたところ、被告ルパーナは「平成五年六月四日打合せの容器メーカーとの生産最少ロット数六〇〇〇本に対する残数」等と書き改めることを希望し、これを踏まえて右合意書が作成されていることが認められ、右合意書の作成経過、成立時期(契約期間の一年目が終了したころである。)に照らせば、合意書において文言上期間の限定が明確に記載されていない以上本件契約の契約期間である二年間における最低取引数量を定めたものとみるべきである。

二  争点1(本件契約の契約期間等)について

1 前記認定のとおり、本件契約において合意された契約期間は二年であって、右認定を覆すに足りる証拠はない。

さらに、平成五年一一月に原告と被告ルパーナ間で、以後五年間の契約継続の合意がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

2 この点に関し、原告は、(一)本件契約の契約期間を六年間とする合意がなされた、(二)仮に本件契約の契約期間が二年であったとしても平成五年一一月に以後五年間契約を延長することを合意したと主張している。

3 そこで、(一)本件契約の契約期間を六年間とする合意がなされたという点について検討する。この点、原告代表者乙山は、被告ルパーナ担当者の政井らとの間で、本件契約の契約期間を五年とする口頭の合意がなされたが、かけ率(定価に対する卸高の割合)等が決まらなかったので二年後に新しい契約書を作り直そうということで契約書で契約期間が二年とされたにすぎないと供述するほか、有限会社北岡事務所の北岡元子及び有限会社トーユーパックの小野藤雄も、平成四年一二月一四日の会合の席で政井が乙山らに対し「我々は三年目位までの赤字は覚悟致しており、四、五年目で採算ベースに乗せられれば良いと考えております。ご協力を賜りますようお願い致します。」と発言したと陳述する。

たしかに、《証拠略》によれば、被告ルパーナにおいて、本件契約の期間について、通信販売事業一般の話として長期的に契約を継続していく見通しを持っていたことは認められる。

しかしながら、<1>契約書上は契約期間は二年間と明記されていること、<2>原告代表者乙山本人は、本件契約書は乙九号証を借用したものであると供述するが、契約条項は適宜変更していること、<3>原告が主張する合意の年数が何度か変遷していること、<4>原告代表者乙山の右供述部分のうち、契約期間とかけ率との関係について具体的かつ合理的な説明がされておらず、本件契約書上二年の確定した期間が明記されていることとの関係等が明らかではないこと等によれば、(一)の点についての原告代表者乙山の供述部分等は採用できない。

4 次に、(二)仮に本件契約の契約期間が二年であったとしても平成五年一一月に以後五年間契約を延長することを合意したという点について検討する。この点、証人早川は、平成五年一一月三〇日の会合の席上契約期間を四年又は五年とすることに承諾したと証言し、原告代表者乙山本人も同様の陳述・供述をするが、<1>原告欄に弁護士が立ち会い弁護士事務所で会合がなされたのに右の合意を書面化していないこと、<2>証人早川自身も右会合当日の段階で本件契約書について認識していながら右承諾を書面化しなかった理由について「それはいずれ話が具体的に進めば作ることになると思いますが、一一月三〇日の話は、当方の申入れに対して被告会社ルパーナはそうしましょうということで話のやり取りがあったわけですから、何回かの会合を持つだろうと。ですからその段階で、固まっていったところで書面を作ればよろしいという考えでおりました。」と証言していること、<3>右会合当日において今後の事業計画についてどの程度合意がされていたかについて、証人早川は「書面はできていませんし、それから条項も確たる熟した条項にはなっておりませんでしたから。期間を延長するということだけはまずまず見込みがあったんですという解釈だったんです。」と証言していること、<4>被告ルパーナ代表者北村本人及び証人政井が右承諾の事実について明確に否定する供述、証言をしていること等を勘案すると、証人早川証言等をもって原告主張の合意の成立を認めるに足りないというべきである。

三  争点2(本件告知の正当理由の有無)について

1 前記認定のとおり、本件契約の期間は二年間とし、双方から異議がない限り契約は自動更新され、契約を更新する場合には双方の協議により新しい契約条件を定めること(契約書第一二条)が規定されており、この規定を反対解釈すれば契約当事者の一方から契約を更新するについて異議があれば直ちに契約は更新しないことにもなると解する余地もありうるところである。しかしながら、<1>本件契約が一定期間継続的に一定の商品を供給し、原告が商標登録したブランドを被告ルパーナに使用させるという内容の契約であること、<2>契約書第一二条に本件契約の期間を二年間とした上で、双方に異議がない限り契約が自動継続するものとする旨のいわゆる自動更新条項が存在すること、<3>当事者双方において契約締結時少なくとも一般的な見通しとして長期的な契約の継続も考えられていたこと等の本件契約に関する事情に照らせば、更新拒否の意思表示により契約終了の効果が生じるためには、契約を継続させることが当事者にとって酷であり、契約を終了させてもやむを得ない正当な理由があることを要すると解すべきである。

2 そこで検討するに、原告と被告ルパーナの交渉に関する事情としては、前記認定のとおり、<1>被告ルパーナの営業成績が思わしくない状況のもと、最低取引数量の設定、事業立て直しの計画等の話し合いが難航する中、平成五年一二月六日、原告会社において、乙山が北村に対し右翼との関係を示唆したり、マスコミに公開質問状を出すといった趣旨の発言がなされたこと、<2>北村は右発言を受けて精神的な圧迫を受け、原告との協力関係は困難であると認識したこと、<3>その後平成五年一二月二二日に暫定的な合意書が交わされたものの新規の事業計画についての話し合いは決裂し、平成六年三月、被告ルパーナが原告に対し口頭及び文書で本件告知(その内容は、契約期間の最終日である同年一二月一三日をもって本件契約を終了するというものである。)をしたこと、<4>その後も事後の損害賠償をめぐる交渉が続けられたがこの交渉も決裂したこと、<5>右交渉の決裂後、原告の関与により右翼団体が丁原苑本部付近で街頭宣伝活動を継続的に実施する等の抗議活動をしたこと等の事情に照らすと、本件告知当時、北村が原告との協力関係は困難であるとの認識を持ったことには相当の理由があるというべきである。

3 次に、被告ルパーナの営業努力等に関する事情としては、前記認定のとおり、<1>被告ルパーナは新たに通信販売事業に乗り出したこと、その準備としては化粧品販売会社から話を聞く程度で必ずしも周到なものとは言い難いものであったこと、<2>被告ルパーナは原告が指定したサンプル用パッケージ表面デザインを変更したり、原告が化粧油(化粧下地)としていたジャナピュアナオイルを化粧品パンフレットで美容液として記載してこれを配布したこと<3>被告ルパーナは最低取引価格の設定に消極的であったこと、<4>被告ルパーナの原告に対する代金決済が一部一か月程度遅れたこともあったこと、<5>被告ルパーナは平成五年一二月一四日以降原告との取引をしなかったことの事実が認められるが、他方、被告ルパーナは、前記認定のとおりの販売努力を行い相当の費用も出費していること、原告に対し保証金合計約一億一〇〇〇万円のほか、本件契約で定められた商品等を購入し代金合計約一億〇七〇〇万円を支払っていることも認められる。

4 さらに本件契約が一回目の契約更新時期以前である本件契約締結から約一年後には取引が停止し、本件契約締結から約一年三か月後(更新時期の約九か月前)に本件告知がなされていることも併せ鑑みると、本件告知については、原告との本件契約を継続させることが被告ルパーナにとって酷であり、契約を終了させてもやむを得ない正当な理由があったというべきである。したがって、平成六年一二月一三日の経過により本件契約は終了し、更新はなされなかったというべきである。

また、保証金についても、本件契約(契約書第七条)の定めにより本件契約が終了した平成六年一二月一四日にその返還義務が生じたものである。この点、原告は、原告が商品の引渡をしない理由として、<1>平成六年一一月に被告ルパーナは原告に残商品の廃棄処分を依頼しており、この時点で被告ルパーナは所有権の放棄をしたものであること、<2>被告ルパーナは原告に無断で平成六年八月に本店所在地を移転したところ、原告の用意している容器に被告ルパーナの旧本店所在地が記載されており、被告ルパーナが原告に対して新容器作成の費用を支払うのでなければ引渡はできないこと、<3>本件契約が終了していないことを挙げているが、<1>についてはこれを認めるに足りる証拠がなく、<2>については趣旨が不明で主張自体失当であり、<3>については前記のとおり失当である(なお、清算合意に基づく清算あるいは清算の合意については主張がない。また、甲二三号証の記載は訴訟外での円満解決を前提にした提案にすぎず、これをもって清算等の合意の成立に至ったものとみることはできない。)。

四  争点3(被告ルパーナの債務不履行)について

前記の認定事実によると、本件補充合意の後、原告と被告ルパーナの間で新規事業計画が話し合われたが、合意に至らず、被告ルパーナにおいては、結局のところ、原告との取引を継続したとしても予定どおりの営業実績をあげることができないものと考え、また原告及び乙山に対する不信感から原告との取引を断念することとしたものである。

しかしながら、右の事情は、本件告知の正当理由となり得ても、本件補充合意を破棄するについての正当理由とはなり得ない。なぜなら、本件補充合意当時、既に被告ルパーナの一年間の営業実績は低調で、同被告は、本件事業の再検討を開始していたものであり、かつ、乙山の発言により原告に不信感をもったというのは本件補充合意よりも前の平成五年一二月六日のことだからである。

してみると、被告ルパーナは、少なくとも、本件補充合意の限度においてはこれを実現させるべき義務がある。そして、個別売買契約を成立させることなく、合意に係る約四〇〇〇本の商品を引き取ろうとしなかったのは、被告ルパーナの責任というべく、原告は、右代金九九九一万一五二〇円につき、同被告が原告に預託していた同額の予約保証金をもって弁償金として充当することができるものというべきである。なお、右弁償金充当の合意は、損害賠償の予定と解すべきであるから、原告が主張する債務不履行の請求の範囲内にあるものと解すことができる。

してみると、原告は、右の充当計算によりすでに被った損害の賠償を受けたことになるから、原告の本訴請求は理由がないことに帰する。

その他の原告の主張する債務不履行については理由がない。

五  争点4(被告丙川の責任)について

原告は、被告丙川が被告ルパーナの実質上の経営者であった者であり、本件取引中止の決定も被告丙川によりなされたものであるから、同人が被告ルパーナの実質上の取締役として商法二六六条ノ三第一項の類推適用により原告の被った損害を賠償する義務を負うべきであると主張する。

しかしながら、本件全証拠によっても被告丙川が被告ルパーナにおける実質上の取締役としての任務を懈怠したことを認めるに足りないから、その余の点を判断するまでもなく原告の主張は理由がない。

六  争点5(保証金の返還義務の存否)について

1 第二の一の3の一〇〇〇万円の保証金については、本件契約が期間満了により終了したのであるから、原告は、被告ルパーナに対し、これを返還する義務がある。

2 第二の一の4の九九九一万一五二〇円の予約保証金については、前記のとおり結局商品を引き取ることなく本件契約を終了させたものであるから、右金額は弁償金として原告においてこれを充当することができ、被告ルパーナは、原告に対し、右金額の返還を求めることはできない。

七  よって、本訴請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がなく、反訴請求は一〇〇〇万円の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤 康 裁判官 稲葉重子 裁判官 山地 修)

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